エッジコンピューティング調査 - 動機と分類

研究所でデータセンターのあり方を見直して、新しいコンピューティングのあり方を提案していくぞという話をしており、先行技術としてエッジコンピューティングについて調査している。 次のサーベイ論文が、2018年ということもあり、最近のエッジコンピューティングの状況について、よくまとめられている。

論文では、170件の文献をもとに、次の図のようにFog computing、Cloudlets、Micro datacenters、Mobile edge computingの4つのエッジコンピューティング技術について、 Potentials(Motivations)、Applications、Challengesの3つの観点で整理されている。

(出典: 当該論文のFig. 4. "Edge computing potentials, applications, and challenges")

エッジコンピューティング技術を必要とする背景は、次のようになる。 スマートデバイスウェアラブルガジェット、センサーの発展により、スマートシティ、pervasive healthcare、AR、インタラクティブマルチメディア、IoE(Internet of Everything)などのビジョンが現実化しつつあり、レイテンシに敏感で高速応答を必要とする。 従来のクラウドでは、エンドユーザーや端末とデータセンターとの間のレイテンシが大きいという課題がある。 そこで、この課題を解決するために、エッジコンピューティングでは、ネットワークのエッジやエンドユーザーとクラウドデータセンターの間の中間層を設けることにより、レイテンシの最小化とネットワークの中枢の下りと上りのトラフィックの最小化を目指す。

以下では、エッジコンピューティングの動機と分類についてメモする。

Motivations

(出典: 当該論文のFig. 5. "Edge computing architecture")

トラフィック負荷の削減

  • 動画配信やライブ動画ストリーミングにより、サービスプロバイダからユーザーへの下りトラフィックのボリュームが増加している。
  • CDNのような技術で、サービスプロバイダからユーザーへのトラフィックをデータ流量と遅延を最小化している。
  • しかしながら、デバイスの急増、スマート環境やIoEの登場により、データフローのパラダイムが変化し、大量のトラフィックがインターネットへ流れ込むだろう。
  • 閲覧者に届く前に、CDNISP間でデータ転送のための多くのホップがあるため、現在のCDNのモデルは効率的ではない。
  • データ配信と共有ポイントとしてエッジロケーションが利用できれば、CDNとネットワークエッジ間のトラフィックボリュームを節約できる。

レイテンシの最小化

  • リアルタイムなビジュアルガイドサービスの望ましい応答遅延は25ms~50ms
  • インターネットはの個々のネットワークは僅かな割合のエンドユーザーにしかアクセスされていない。最大のネットワークでもたいてい5%程度。
  • ユーザーは秒レベルの応答速度でないと待てない。
  • ローカルISP(ネットワークエッジ)のコンテンツ配信は、低接続性かつ高いレスポンスタイムの地域には必須となる。
  • 最近では、cloudlets、NFV、moblle edgeなどのエッジサービスを提供するISPも増えてきた。

クラウド上の負荷削減

  • Foresquare、Nike+、Runtastic、Runkeeper、Endmondoなどの位置情報サービスの増加により、エンドユーザーデバイスで大量のトラフィックが日々生成されている。
    • Endmondoは25,000 tuples/sec (tupleは、user id、longitude, latitude, time, distance, speed, duration, calories, weatherなどを含む情報)
  • IoT時代にはより多くのトラフィックが、中央のクラウドサーバに転送されるため、バックボーンネットワークが輻輳し、クラウドサーバは過負荷になる。
  • しかし、すべてのデータが有用なわけではない。LHCでは、99.999%のデータがフィルタリングされる。
  • エッジコンピューティングにより、ユーザー近傍のエッジで不要なデータをフィルタし、リアルタイムな応答を返す。
  • さらに、クラウドに転送するまえに、フィルタリング/トリミングし、クラウドのネットワークトラフィックとサーバ負荷を削減する。

エンドユーザーデバイスの負荷削減

  • スマートフォンのようなエンドユーザーデバイスは、大量トラフィックを生成する複雑なタスクを求めるため、すぐにバッテリー消費してしまうかもしれない。
  • エンドデバイスには、近傍のエッジに高負荷処理をオフロードできる。

エネルギー消費の削減

  • エッジコンピューティングにより、リソース制約のあるモバイルデバイスでのエネルギー消費をエッジへオフロードできる。
  • 大抵のアルゴリズムは、アプリケーションが許容できるエッジでの実行遅延を制約として、モバイルデバイスのエネルギー消費を最小化することを目指している。
  • クラウドサービスを利用したときのエネルギー消費の要因
    • (a): サービスにアクセスするエンドユーザーデバイスのエネルギー消費
    • (b): 内部ネットワーク、ストレージ、サーバを含むデータセンターのエネルギー消費
    • (c): ユーザーとクラウド間で交換されるトラフィック
    • (d): 実行されるタスクの計算量
    • (e): コンピューターリソースを共有するユーザーの数のような要素
    • (f): ネットワークのエネルギー消費 (aggregation、edge、core networks)
  • インターネット上でのエネルギー消費はデータ転送が14%を占める。

データセンターでの計算処理のオフロード

  • エッジコンピューティングにより、限られたリソースをもつデータセンターからエッジノードへコンピューティングをオフロードできる。
  • 高解像度の写真や動画をユーザーデバイスからクラウドへアップロードすることにより、多くの帯域を消費する。
  • 圧縮関連のタスクをエンドユーザーの近いエッジデバイスにオフロードできる。エッジで暗号化もできる。

エッジコンピューティングの分類

Fog

(出典: 当該論文のFig. 6. "3-tier architecture consisting of cloud, fog, and IoT end devices layers")

  • Fogコンピューティングは、クラウドコンピューティングをエンドユーザーの近傍に持ち込むプラットフォームである。
  • Fig.6の3層構造 (エンドデバイス、Fog、クラウド)のうち、fogはルーター、アクセスポイント、ワイレスネットワーク、LTE基地局を通して、エンドユーザーに接続される。
  • ゲートウェイルーター、AP、Set Top Box、RSUs、M2Mゲートウェイなどのエンドデバイスだけでなく、ネットワークのエッジからIoTアプリケーションを運用できる。
  • フォールトトレランス、信頼性を促進し、スケーラビリティを維持できる。
  • challengesとして、異種混合デバイスの管理、アーキテクチャ上の課題、セキュリティ、モビリティ、プライバシーの課題がある。
  • バイス接続数増加によりスケーラビリティの確保、異種混合デバイスとデータのリソーススケジューラーの設計、デバイスのモニタリングと管理、トラフィックモニタリングと課金の仕組み
  • 高価なデバイスとネットワーキングのセットアップが必要なので、シミュレーションツールによるpre-deployment testが必要だが、まだ標準的なものがない。

see also Fogコンピューティングのご紹介 資料公開のお知らせ – さくらインターネット研究所

Cloudlets

  • Fogと同じように、3-tierアーキテクチャ(モバイルデバイス - cloudlet - cloud)のミドル層に相当する。
  • "data center in a box" クラウドサービスをモバイルユーザーのより近くに持ち込むことが目的
  • cloudletは、モバイルデバイスの近くに、豊富なリソースをもつマルチコアマシンのクラスタと高速なインターネット接続と高帯域ワイヤレスLANで構成されている。
  • 安全目的で、cloudletは監視できないエリアでセキュリティを保証するために、耐タンパー性の箱で囲む。
  • モバイルデバイスシンクライアントとして動作し、計算タスクをワイヤレス・ネットワークごしに、1 hop先のcloudletにオフロードできる。
  • cloudとcloudletの基本的な違いは、cloudletはデータまたはコードのsoft state(stateless)のみを含み、cloudはsoft stateとhard stateを含むことである。cloudletの障害は、データロスにはならない。

Micro datacenters

  • Microsoft Researchが今日の超大規模クラウドデータセンターの拡張として、micro datacenterのコンセプトを発表した。
  • micro datacenterは、self-containedであり、セキュアなコンピューティング環境である。カスタマーのアプリケーションを動作させるために、必要なコンピュテーション、ストレージ、ネットワーキングのすべてを含む。
  • アプリケーション例として、産業オートメーション、環境モニタリング、石油とガスの探索、建設現場、その他の現地でリアルタイムな処理が必要となるアプリケーションがある。

Mobile edge computing (MEC)

(出典: 当該論文のFig. 7. "Mobile edge computing")

次の記事では、当該論文にまとめられているApplicationsについてメモする。

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